大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(ヨ)2281号 決定 1993年2月10日

債権者

甲田甲雄

右訴訟代理人弁護士

安西愈

町田冨士雄

井上克樹

外井浩志

込田晶代

債務者

株式会社東京ピーシー

右代表者代表取締役

北村素行

右訴訟代理人弁護士

冨永長建

主文

一  本件申立てをいずれも却下する。

二  申立費用は債権者の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  申立ての趣旨

1  債権者が債務者に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  債務者は、債権者に対し、平成四年四月から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二五日限り月額金八一万七三九五円の割合による金員を仮に支払え。

3  申立費用は債務者の負担とする。

二  申立ての趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  債権者の主張

1  債務者会社は、昭和五〇年二月一八日に設立された株式会社であり、プラント化学洗浄・物理洗浄工事、給排水管及び各種機器装置の洗浄工事等の事業を目的としている。なお、債務者会社代表取締役社長である北村素行(以下「北村社長」という。)は債権者の実兄である。

2  債権者は、債務者会社の取締役を兼務しつつ、債務者会社の従業員として就労していたが、債務者会社は、平成四年(以下、日付は特に断らない限り平成四年である。)三月一六日以降、債権者の従業員及び取締役としての地位を否定し、同年四月分以降の賃金を支払わない。

3  債権者は、妻、中学生の子供二人、義母を抱えており、債務者会社からの賃金が支払われなければ生活に困窮する。なお、債権者が貸家を所有していること、義母が不動産を売却してマンションを購入したこと、妻と義母が債権者の扶養家族となっていないことは、債務者会社の主張のとおりであるが、自宅土地家屋は妻の所有であり、また、妻はピアノ教師を一〇年以上前にやめている。

4  債権者は、債務者会社から、毎月二五日、八一万七三九五円の賃金を支給されていた。

5  よって、本件申立てに及ぶ。

二  債権者の主張に対する認否

1  債権者の主張1、2の事実は認める。

2  同3の事実中、生活に困窮するとの点は否認し、その余は認める。債権者は、自宅土地建物を所有しているほか、賃料月約一〇万円の貸家を所有している。妻はピアノ教師で収入があり、義母は、最近、不動産の売却で収入があったようであり、二人とも債権者の扶養家族にはなっていない。

3  同4の事実中、賃金額は認めるが、賃金支払日は否認する。支払日は毎月二七日であった。

三  債務者会社の主張

債権者と債務者会社は、平成四年二月二八日、三月二〇日限りで両者間の雇用契約を解約することを合意した(以下「本件退職合意」という。)。

右合意の前後の経緯は次のとおりである。

1  債務者会社内部において、平成元年ころから、債権者が担当取引先から秘かにリベートを受け取って着服しているとの噂があった。

北村社長は、これを憂慮して、平成三年九月の役員会の際、債権者に注意をしたが、債権者はそのような事実はないと否定し、仮にそのような事実があれば責任をとって辞職すると述べた。

2  平成四年一月二四日、債務者会社(当時は東京都千代田区飯田橋が所在地であった。)に対し、麹町税務署の税務調査が開始された。債権者は、調査が始まった時から一人で数日にわたって書類を整理していたが、周囲はこれを不審に思っていた。

調査の過程で、債務者会社が平成二年八月に有限会社大晴(以下「大晴」という。)から請け負った工事代金三〇九〇万円について、二三六九万円しか債務者に入金されておらず、残金七二一万円の処理方が不明になっていることが明らかになった。右工事は債権者の担当であったが、債権者は詳細を報告していなかったので、北村社長も調査官に右残金について説明することができなかった(後日、右残金分の工事は、債権者が独断で大和実業株式会社(以下「大和実業」という。)に請け負わせていたことが判明した。)。

3(一)  二月二八日、税務署の調査官が、反面調査のため大晴に赴いたところ、既に債権者がその場に来ており、大晴に代わって弁解をしようと待っていた。債権者のこの行動は債務者会社の全く関知しないものであったが、税務署側は、北村社長に対し、このような調査妨害ともとれる債権者の行動について抗議するとともに、これから債権者を連れて債務者会社に向かうので在社しておくようにとの指示をした。

(二)  調査官は、間もなく債権者を伴って債務者会社に到着し、債権者の机を調べたが、大晴関係の書類、預金通帳が見つからなかったので、債権者にその所在を問いただした。債権者が自宅に置いてあると答えたところ、調査官は、北村社長に対し、債権者について問題があるので調べている、これから債権者宅に直行するので同行してもらいたい旨述べた。

(三)  調査官、債権者及び北村社長は、同日午後八時三〇分ころ、債権者宅に到着した。調査官が債権者の机を調べたところ、銀行預金通帳が五、六冊見つかった。調査官は、債権者に対し、年間どのくらいリベートを取っているかと質問し、債権者は、一〇〇万円くらいと答え、これをうけて調査官は、それでは三か年で三〇〇万円か、と述べた。さらに、調査官が債権者を追及した結果、金額は確定できなかったものの、債権者が取引先からリベートを債権者の義母名義の預金口座に振り込ませて受け取っていたことが明らかとなった。

その日の調査は、午後一一時過ぎで打ち切られ、調査官は、債権者と北村社長に、三月四日午前一〇時に税務署へ出頭するよう指示した。

その後、調査官が電話で連絡をしている間、債権者は、北村社長に対し、取締役を辞任し、従業員としても退職することを北村社長に申し出、北村社長は、これを了承し、両者間で、同年三月二〇日付けで退職扱いとし、同日分までの賃金を支払うことで合意した(本件退職合意)。

4  債務者会社は、二月二九日から三月八日までの間をかけて、現所在地へ移転した。この間、債権者は、私物の整理や退職手続の連絡のために出社したが、通常の勤務は全くしなかった。

5  債権者と北村社長は、三月四日、麹町税務署に出頭して調査を受け、債権者は、リベートを取得着服した旨の文書に署名押印して提出した。

6  同月一四日、債務者会社の取締役会が開かれた。この席上、債権者を懲戒解雇にすべきであるとの意見も出たが、北村社長の説得もあり、同月二〇日付けで取締役は辞任、従業員としては退職の扱いとすることで了承された。

7  同月一六日、北村社長は、麹町税務署に出頭し、そこで債権者の受け取ったリベート額は四六六万一八九〇円となることを示された。北村社長は、このうち調査対象年度分の四一五万円を債務者会社の所得として修正申告すると述べた(後日その手続をとったところ、重加算税は五六万円となった。)。

同日、債権者と北村社長は、右リベートを債務者会社から債権者への貸付金として会計処理し、債権者が債務者会社に直ちに返済することを合意した。その際、北村社長が、辞任届、退職届の文案を示して債権者に両届の提出を求めたところ、債権者は各書面の作成は了承したものの文面に難色を示したので、後日内容を修正して署名押印することとなった(結局、この退職届等は作成されないまま、本件申立てに至った。)。

8  同月一八日、債権者は、北村社長に対し、四月一五日まで準備期間を欲しい旨を申し出、北村社長はこれを了承した。

9  債務者会社は、三月二〇日、債権者を退職扱いとし、四月には、電話で債権者の了解を確認したうえ、社会保険打切りの手続をとった。

10(一)  債権者は、四月一五日、債務者会社を訪れ、債務者会社に対し、要求事項と題する書面を提出した。その内容は、債権者が債務者会社のために設定した根抵当権の解除、退職金の支払、債権者が独立して営業を始めること、債権者が従前債務者会社で担当していた顧客のうち数十の者と今後取引を行うこと等について文書で回答を求める、というものであった。

これに対し、債務者会社は、同月二二日、回答書を債権者に郵送した。その内容は、根抵当権の解除は六月末日までに行う、退職金として八〇〇万円を支払う、従前の顧客との取引は認める、といったものであった。

(二)  債権者は、五月一日、回答書と題する書面をもって債務者会社に再度提案をした。これによると、退職金の要求額は二五〇〇万円となっており、債務者会社の提示した八〇〇万円を大きく上回るものとなっていた。また、債権者は自己の着服した四六六万円余りのリベートと重加算税五六万円の支払については、交通事故にあったと思ってあきらめろ、と言い放った。

(三)  その後、債権者と債務者会社は、債権者の要求について交渉を続けたが、合意に至らなかった。

11  債務者会社は、四月三〇日、各取引先に、債権者が債務者会社を退職し独立して営業を開始する旨の挨拶状を郵送した。これは債権者の要求に基づくものであり、郵送に際しては電話で債権者の承諾を得た。また、債権者が引継ぎを希望した取引先に対する挨拶状については、その文案についても債権者の了解を得ていた。

四  債務者会社の主張に対する認否

本件退職合意があったとの事実は否認する。

債務者会社の主張する事実経緯についての認否は次のとおりである。

1  三1の事実は否認する。

2  三2の事実は概ね認める。ただし、書類の整理は債務者会社の移転の準備のために行っていたものであり、税務調査とは関係はなく、周囲から不審に思われることもなかった。債務者会社において、三〇〇〇万円を超えるような大口の工事を受注してくる者は債権者だけであり、そのような工事を債務者会社が単独で施工することも難しいため、従来から、大和実業その他の会社に分割受注させていた。このことは、北村社長その他の役員も承知していることであり、この時の工事だけが特別なものではなかった。

3(一)  三3(一)の事実中、調査官が大晴に赴いたことは認めるが、大晴に債権者がいたこと、税務署が抗議したことは否認する。北村社長への指示は知らない。

この日は、大晴から債権者に来社を請う旨の依頼があり、債権者はこれに従ったものである。債権者が大晴に着いた時には、既に調査官も来ていた。調査官は、債権者からも事情を聞けるので好都合という態度であった。

(二)  三3(二)の事実中、調査官と債権者が債務者会社に着いたこと、調査官が債権者の机を調べたこと、債権者の自宅へ行くことになったことは認める。調査官と北村社長の間のやりとりは知らない。

なお、税務調査の過程で、机を調べられた者は他にもあり、債権者一人の机が突然調べられたというわけではない。

(三)  三3(三)の事実中、調査官、債権者及び北村社長が債権者宅に直行したこと、債権者の机の中から預金通帳が五、六冊見つかったこと、調査官に詰問され、債権者が心ならずも一〇〇万円くらいと答えたこと、税務署への出頭を指示されたことは認める。その余の点は否認する。

債権者は、その日午後八時三〇分ころから午後一一時近くまで二時間以上にわたって調査官と北村社長に執拗に詰問されたため、やむなく意に反してリベートを受け取ったと返事し、適当に一〇〇万円くらいと答えたにすぎない。そもそも、リベート受取が債権者宅の通帳から判明したということはなく、何の裏付けもない。義母名義の口座への振込は、義母が所有していた土地を駐車場として借りていた会社からの賃借料の振込みであり、リベートではない。調査官が電話連絡をしていたのは数分のことであり、その間、債権者は北村社長から、当面出社に及ばない旨告げられたが、債権者の方から退社する等の発言をしたことはない。

4  三4の事実中、債務者会社が移転したことは認める。その余は否認する。

債権者は、毎日のようにポケットベルで呼び出され、その都度現場に赴いたり、連絡を入れたりしており、また債務者会社内で請求書等の処理をしていた。

5  三5の事実中、債権者と北村社長が麹町税務署に出頭したことは認める。その余は否認する。債権者が署名押印したのは税務署の調査官が用意していたメモである。

6  三6の事実は知らない。債権者は、取締役会開催の通知は受けていない。

7  三7の事実中、リベートを貸付金として処理し、債権者がこれを返済するとの合意があったこと、債権者が後日退職届等を作成することに同意したことは否認する。その余は知らない。

債権者は、北村社長からリベートを貸付金にするという話は聞いたが、返済するとは言っていないし、退職届も辞職届も、辞めるつもりがないから書いていないのである。

8  三8の事実は認めるが、債権者の発言は、もし、辞めるのであれば準備のための期間が必要であるということを述べたものである。

9  三9の事実中、債権者が保険打切りを了承したことは否認する。その余は認める。保険打切りは債務者会社が勝手に行ったことである。債務者会社従業員からの右打切りの連絡に対し、債権者が勝手にしろと返事したことはあるが、これは納得してのことではない。

10(一)  三10(一)の事実は認める。

(二)  三10(二)の事実中、債権者が再提案したこと、交通事故にあったと思ってあきらめろという発言をしたことは認める。

退職金額については、債権者が理由なく退職させられることになるため、従業員としての退職金と役員分としての退職金を要求したものであり、交通事故うんぬんの発言は、退職条件について話をしている最中に、返済の約束をしているわけでもないのに、リベートと重加算税に話が及んだため感情的になって出たものである。

(三)  三10(三)の事実は認める。

11  三11の事実中、債務者会社が挨拶状を郵送したことは認めるが、その余は否認する。

債権者は、万一、債務者会社を円満退社することになれば、挨拶状を得意先、下請業者に出すことは了解していたが、いまだ債権者は退職に合意しておらず、挨拶状は債務者会社が勝手に郵送したものである。

五  債権者の反論

1  債権者は、今日に至るまで退職届、辞任届を債務者会社に提出していないが、これは本件退職合意が存在しないことを裏付けるものである。

2  債権者と債務者会社間では、現在も、債権者の退職金の額について合意ができていないが、このことも本件退職合意が存在しないことを裏付けるものである。

また、債権者は、債務者会社のために限度額一五〇〇万円の根抵当権を設定しているが、これが解除されないうちに、債権者が退職するはずはない。

3  債権者は、二月二九日以降も債務者会社に出社し続けているが、このことも本件退職合意が存在しないことを裏付けるものである。

4  税務調査により明らかになった債務者会社の不正は二八〇〇万円を超えており、債権者が受け取ったとされるリベート額約四一五万円を大きく上回っている。平成三年度だけでも加算外注費のうち九六万円余りを税務署から否認されており、債権者以外の者がそれだけの額をリベートとして受け取っていることになる。

このようにリベートそのものは債務者会社では異例のことではない。債権者も、業者に強要したことはないが、ことさらにリベートを許否したことはなく、これらの金も顧客との接待費に使っている。

二月二八日に債権者宅で見つかった通帳の中には、北村社長から頼まれてリベートのための裏金を作るための通帳も含まれていたのである。すなわち、債権者は、昭和六二年ころ、北村社長から、顧客にリベートを渡す金を作りたいが、社長の名前で金を借りると税務調査で追及されるので、債権者の名前で銀行から金を借りてくれと頼まれ、神田信用金庫から三〇〇万円の融資を受け、この金を北村社長に渡している。この金は、月々北村社長が債権者の名前で返済していたが、途中で返済がされなくなり、やむなく債権者が自ら返済せざるをえなくなった。

また、今回の税務調査でも指摘されたが、債務者会社では、岸本某という特定の発注者に不正な送金をしている等、経理に不正な点が多い。

このような取引先との関係が常態となっている債務者会社にあって、債権者一人が責任を感じて退職の意思を表明することはありえない。

5  北村社長は、債務者会社と業務内容をほぼ同じくする株式会社センヨーサービス(以下「センヨーサービス」という。)という会社を設立し、この会社のために、債務者会社の顧客をまわしたり、債務者会社の営業費を使ったりし、また、書類上、債務者会社から仕事を下請けに出した形にして、実際には債務者会社の従業員に仕事をさせ、売上金はセンヨーサービスに計上するということも行っている。

このセンヨーサービスの所在地は債務者会社の旧所在地と同じであり、債権者を除く債務者会社の役員が役員となり、北村社長が代表取締役に就任しているが、債権者には全く話がないまま設立されており、このことからも北村社長をはじめとする債務者会社役員らが債権者を疎ましく思っていたことが推認できる。

そして、プライベートカンパニーを使って設けていることを債権者が知ったことを、北村社長が快く思っていなかったことも推察にかたくない。また、債務者会社において、北村社長に率直に進言するのは債権者一人であった。

このように、債務者会社は、税務調査の機会を利用して債権者を不当に排除しようとしているものであることは明らかである。

六  債務者会社の再反論

1  債権者は、前記三7のとおり、退職届等の提出について了承していた。

2  本件申立ては、債権者が退職金の不当な増額を目的として起こしたものである。すなわち、債権者がリベート着服の責任をとって退職するに際し、実兄である北村社長は、恩情をもって、即時懲戒解雇すべきであるとの他の役員らの意見を抑え、退職金を支払い、独立して営業できるための期間の猶予を与える等の便宜をはかってやったのであるが、安心して欲を出した債権者は、多額の退職金を要求し始め、これを拒否されるや、退職届等を提出していなかったことを奇貨として本件申立てをしたものである。

根抵当権は、債務者会社の資金繰りの問題もあり、抵当権者という相手もある以上、債務者会社が随時に解除できるものではない。

3  債権者の、本件退職合意後の出社状況は三4のとおりである。

4  債権者の主張する不正な二八〇〇万円は債務者会社には趣旨が不明である。債務者会社の修正申告額は全体で一六六〇万円余りであり、内四一五万円は債権者のリベートであるから、これを除くと一二四五万円余りであるが、これは、計上漏れや経費に当たるかどうか税務署と債務者会社で見解が相違したものも含まれており、リベートとは全く性質が異なる。

債権者が神田信用金庫から借りた三〇〇万円は、債権者が個人で商品取引や不動産投資等を行うための資金であり、債務者会社とは無関係である。

5  センヨーサービスの設立に当たっては、債務者会社の取締役会の承認も得てある。債権者が同社の発起人、株主、役員になれなかったのは、債権者の能力欠如等により発起人の反対があったためである。同社の営業向上に伴って債務者会社にもこれに付帯する受注が増えており、収益も年を追って増大している。債権者も、本件申立てに至るまで、センヨーサービスのために債務者会社の売上が減少している等の不満は全く述べていない。

6  債権者と北村社長はこれまで協調関係にあり、また、債務者会社は、平成三年一一月から現所在地に自社ビルを建築し、平成四年二月末に移転したが、その費用の返済はこれから始まるところであって、経営は重要な時期を迎えるところであるが、このような時に、北村社長が債権者を排斥しなければならない理由はない。

そもそも、債権者は、保守監理の技術を有し(北村社長はこれを有しない。)、債務者会社創設以来の取締役なのであって、このような人物を根拠もなく排斥すれば債務者会社内に紛争が生じるおそれもあり、かえって北村社長自身が排斥されかねないことになるのである。

第三理由

一  本件の争点は、究極的には、本件退職合意の存否に尽きるが、右合意の存在についての直接証拠は北村社長の各陳述書(<証拠略>)記載の陳述(以下「北村陳述」と総称する。)だけであり、これに対する直接の反証は債権者の各陳述書(<証拠略>)記載の陳述(以下「債権者陳述」と総称する。)であって、本件の帰趨は、いずれの陳述を信用すべきかにかかってくる。

二  そこでまず、債務者会社が本件退職合意があったと主張する時期の前後の事実経緯と各陳述との整合性を検討する。争いのない事実及び債権者陳述によっても認めることのできる事実を総合した事実経緯は次のとおりである。

1  平成四年一月二四日、債務者会社に対し、麹町税務署の税務調査が開始された。

調査の過程で、債務者会社が平成二年八月に大晴から請け負った工事代金三〇九〇万円について、二三六九万円しか債務者に入金されていないことが問題となった。右工事は債権者の担当であった。

2  二月二八日、調査官が、債務者会社との取引について調査するため大晴に赴いた。債権者も、当日、大晴に赴いて、この調査の現場に立ち会った。その後、調査官は、債権者を連れて債務者会社に向かった。

調査官は、間もなく債権者を伴って債務者会社に到着し、債権者の机を調べた。さらに、調査官は、債権者に、個人名義の預金通帳の所在を問いただした。債権者が自宅に置いてあると答えたところ、調査官は、債権者に対し、直ちに債権者宅に向かうので同行してもらいたい旨述べ、債権者はこれを承諾した。

調査官、債権者及び北村社長は、債権者宅へ向かい、午後八時三〇分ころ、債権者宅に到着し、二階の債権者自室へ入った。調査官が債権者の机を調べたところ、銀行預金通帳が五、六冊が見つかった。その中に、昭和六三年四月六日大和実業が二一万一八九〇円を振り込んだ旨の記載が見つかったが、債権者は、その金の内容を説明できなかった。調査官は、債権者に対し、リベート受取りの有無について質問し、債権者は、受取りを認めた。さらに、調査官が、一年当たりのリベートの額について質問し、債権者は、一〇〇万円くらいと答えた。調査官は、債権者に対し、右預金通帳を再度検討し、リベートの受取りについて書類を整えるので、三月四日午前一〇時に税務署に出頭するよう指示した。

その日の調査は午後一一時ころに終わり、債権者は、北村社長と調査官を駅まで送っていった。その途中、調査官が公衆電話で数分間どこかへ連絡をしたが、これを待つ間、北村社長は債権者に「明日からしばらく出社しなくてもよい。」と告げた。その後、三人は駅前の飲食店に入り、三〇分間ほど世間話をしながら食事をした。北村社長は、別れ際に、債権者に対し、「社内に動揺を与えるから明日は休みなさい。」と言った。

3  三月四日、債権者は、税務署に出頭し、調査官に事情を聴取された。債権者は、この日も、昭和六三年の大和実業からの二一万円余りの振込について内容を説明できなかった。

三月九日、債権者は、再度税務署に出頭し、調査官から示されたメモのような書類(債権者はその内容を覚えていないと陳述する。)に署名押印した。

4  三月一六日、債権者は、北村社長から辞任届、退職届の文案(甲二、三)を示されたが、署名押印はしなかった。

三月一八日、債権者は、北村社長に対し、四月一五日まで準備期間が欲しいと申し出た。

債務者会社は、三月二〇日、債権者を退職扱いとし、四月には、社会保険打切りの手続をとった。

債権者は、四月一五日、債務者会社を訪れ、債務者会社に対し、要求事項と題する書面(<証拠略>)を提出した。その記載内容は、債権者が債務者会社のために設定した根抵当権を解除すること、退職金を支払うこと、債権者が独立して営業を始めること、債権者が従前債務者会社で担当していた顧客のうち数十の者と今後取引を行うこと等について文書で債務者会社の見解の回答を求めるというものであった。これに対し、債務者会社は、同月二二日、回答書(<証拠略>)を債権者に郵送した。その内容は、根抵当権の解除は六月末日までに行う、退職金として八〇〇万円を支払う、従前の顧客との取引は認める、といったものであった。

債権者は、五月一日、回答書と題する書面(<証拠略>)をもって債務者会社に再度提案をした。これによると、退職金の要求額は二五〇〇万円となっており、債務者会社の提示した八〇〇万円を大きく上回るものとなっていた。また、債権者は、四六六万円余りのリベートと重加算税五六万円の支払については、交通事故にあったと思ってあきらめろ、と言った。

その後、債権者と債務者会社は、債権者の要求について交渉を続けたが、合意に至っていない。

そこで検討するに、まず、北村陳述の内容は、第二の三の本件退職合意に至る経緯についての債務者会社の主張と同旨であるが、右に認定した事実との間には特に矛盾する点はなく、事実経過として特に不自然な点もないといってよい。

これに対し、債権者陳述の内容をみると、まず、二月二八日に年間一〇〇万円くらいのリベートの受取りを認めた事情について、「調査官はしつこく聞きますし、北村社長まで会社の税務調査とは関係なく私個人のアラ捜しでもするかのような状況で二時間も部屋に粘られ、精神的、肉体的に私の方がまいってきてしまいました。突然の自宅調査ですから、夜遅くなればなるほど階下で事情を知らない義母と次女が不安に思うでしょうし、次第に私も疲れてきました。しかし、調査官はなおも『取っただろう』と聞くので私が『受け取りました』と答えると、たたみかけるように、続けて『一年でいくらか』『二〇〇万か』『三〇〇万か』と金額を言わせようとするので一〇〇万単位で聞かれたことから私も『一〇〇万くらい』と適当に答えました。」(<証拠略>)、「私は、二月二八日に『年間一〇〇万円くらいのリベート』を受け取っていると答えましたが、具体的な根拠があって答えたわけではありません。しかし、私たちが取引をする実態として、取引先の会社の方を接待したり、逆に私たちが接待を受けることもよくあることで、そのような接待の際等に数万円の現金を受け取ることも皆無ではありません。またそのような場合に断固受取りを拒否することもしません。ですから、リベートの受領が全くないのかといえばそういうわけでもなく、ただ、その額は、とても年間一〇〇万円もいくわけではなくて、多くても年に二〇万円くらいではないかと思います。」(<証拠略>)、という弁解がなされているが、右陳述自体からも明らかなとおり、金額の多寡はともかくリベートの受領があったことは債権者自らが肯定しているのであり、リベート受取りは根拠のないことであるという弁解は、それ自体矛盾をはらんだものになっている。そして前記認定のとおり、調査官の質問は債権者の自室で行われており、調査後には世間話をしながら食事を共にしているなど、債権者が虚偽の弁解に追い込まれるほど厳しい追及があったにしては、前後の経緯がやや不自然である。また、債権者陳述の内容が事実であれば、調査官は何の根拠もなく債権者宅に押し掛けて債権者を二時間以上も詰問したということになるが、なぜそのようなことを債権者が甘受したのか疑問が残るといわざるをえない。さらに、その後、債権者は少なくとも二回税務署に出頭しているにもかかわらず、リベート受取りについて供述を改めて否認したというような事情は、債権者陳述には一切現れていない。したがって、年一〇〇万円のリベート受取りを認めたのはその場をしのぐ嘘であったとの債権者陳述は、事実経緯に照らして不自然であり、信用性に疑問があるといわざるをえない。

また、右認定の4の事実経過について、債権者陳述では、「北村社長から『退職届』『辞任届』を出すように言われて、会社がそのように考えているのなら、条件によっては退職して独立することも考えようかと思い、もし会社を辞めるのであれば独立するための準備期間が必要だという話しはしました。」(<証拠略>)、「四月二日に出社した時に三月二〇日付で私が退職したという回覧が三月二六日になされていたことを知り、会社の一方的なやり方に怒りがこみあげてもきました。それほど私を退職扱いにしたいのであれば、条件によっては退職してもよいと考えて、以後、交渉を続けました」(<証拠略>)、という弁解がされており、これによると、債権者は特に辞める理由はなかったが債務者会社の方で債権者を辞めさせたがっているので辞めてもよいと考えた、ということになる。しかし、債権者は債務者会社の創業以来の取締役であり(争いのない事実)、債務者会社の株式の四分の一以上を所有する株主でもあること(<証拠略>)を考えると、退職を決意するには動機がきわめて薄弱としか思われない。むしろ、右4の要求事項と題する書面(<証拠略>)をみると、債権者は、自ら積極的に、退職後の営業といった事項に踏み込んで交渉に入っているのであり、事実の流れとしては、債権者の退職条件について交渉が始まる以前の時点で、債権者の退職が債権者と債務者会社との間で既定のものとなっていたと考える方が無理がないのである。したがって、この点についての債権者陳述にも疑問が残るといわざるをえない。

以上のとおり、事実経緯との整合性という観点からみると、北村陳述には信用性を疑わせるような点は特にないのに対し、債権者陳述には不自然な弁解が多く、全体として信用性が疑わしいといわざるをえない。

三  次に、債権者のリベート受領に関し、第三者的な立場にある者の陳述書について検討してみることとする。

1  井沢成章の陳述書(<証拠略>)によれば、同人は、債務者会社からビル設備工事を請け負っていたが、平成二年一二月一七日、その代金一二九万円を債権者から受け取った際、五〇万円を債権者に渡したこと(なお、この五〇万円が右代金の内から支出されたものであったかどうかまでは定かではない。)が認められる。そして、審尋の全趣旨によれば、債務者会社は、このことを調査官から指摘されるまで関知してなかったものと認められる。

債権者陳述では、この五〇万円について、「営業に金がかかるという相談を社長にしたら自分で作れといわれたため、経費をこのような形で捻出した」との弁解がなされているが(<証拠略>)、小額とはいえない額の金を受け取りながらなぜ債務者会社にこれを報告していなかったのかについては全く説明がないなど、弁解自体不十分であるうえ、反対趣旨の北村陳述(<証拠略>)に照らして信用できない。そして、他にこの五〇万円の趣旨については何らの説明もない。

したがって、右の五〇万円は債権者が債務者会社に無断で着服したリベートであったと認めざるをえない。

2  有限会社アクア技研(以下「アクア技研」という。)の代表取締役小山石佑悦の陳述書(<証拠略>)によれば、同社は平成三年八月ころ、債務者会社から設備工事を請け負ったが、担当者である債権者から、当初見積もり額である三四万円余りに一〇万円を上乗せして債務者会社に代金を請求し、その一〇万円をリベートとして債権者個人に渡すよう要求され、苦慮の末、この要求に応じることにし、債務者会社への代金請求を四四万円とし、これを受け取った後、同年一一月二〇日ころ、債権者に一〇万円を渡したことが認められる。そして、審尋の全趣旨によれば、債務者会社は、このことを債権者から知らされてなかったものと認められる。

債務者陳述では、北村陳述と右小山石の陳述書との齟齬が指摘されているが(<証拠略>)、北村陳述の指摘された箇所というのは、アクア技研に正式に事実を確認する前の風聞の内容について説明したものであるから、事実が正確に一致しなくても不自然ではなく、また債務者会社の作業指示書(<証拠略>)には、右工事代金は四四万円との記載があるが、この指示書の受付月日(一〇月三一日)とアクア技研から債務者会社への請求書(<証拠略>)の受付月日(一〇月九日)から勘案すると、右指示書の記載はアクア技研からの請求額(つまりリベート分が上乗せされた額)をそのまま記載したものとうかがわれるので、いずれも右認定の妨げとなるものではない。

以上のとおり、第三者的立場の者の陳述書によっても、債権者が決して少なくない額のリベートを取引先から受け取っていたことが認められる。これは、債権者はリベート受取りが発覚したことを契機に退職を申し出たとする北村陳述の裏付けとなる事実といえる。

四  さらに、本件退職合意が存在しないことを根拠付ける理由として債権者が反論する点について検討する。

1  債権者の反論1について

債権者は、本件退職合意について書面が作成、提出されていないことを本件退職合意の不存在を裏付けるものであると主張する。しかし、右二で認定したとおり、債権者は債務者会社に対し多岐にわたる退職条件を求めていることに鑑みると、債権者は、本件退職合意が存在するにもかかわらず、退職条件について有利に交渉を進めるために、本件退職合意が口頭でされたものであることをよいことに、態度を翻して合意の存在を否定し、退職届に署名をしなかったものである、との見方も十分可能なのであって、退職合意について書面が存在しないことは、本件退職合意が存在すると認定するについて妨げとならないというべきである。

2  債権者の反論2について

債権者は、退職金の支払や根抵当権の解除について合意ができていないことは本件退職合意が存在しないことの裏付けであると主張する。しかし、債務者会社の主張するような突発的な経緯で退職の合意がされた場合には、退職の条件が整わない間に退職合意がされるのがむしろ通常であるし、右二で認定のとおり、債務者会社は、四月二二日に債権者へ郵送した書面において、根抵当権は六月末日までに解除する、退職金として八〇〇万円(この金額は債務者会社の退職金規定(<証拠略>)に照らして相当な額と認められる。)を支払う旨述べており、交渉態度に特に不誠実な点はみられないのであって、退職条件について合意に至っていないのは、本件退職合意が存在しないからではなく、むしろ債権者の要求が過大であるためとも思われる。したがって、債権者の右主張は採用できない。

3  債権者の反論3について

債権者は、本件退職合意があったとされる二月二八日以降も出社を続けていたと主張する。しかし、この主張に関する債権者陳述をみると、「その後も私は必要に応じて出社し請求伝票を書いたりあるいはポケットベルの呼出しに応じて直接現場に行き仕事をしていました。会社は残務処理をするのは当然だと言っていますが、仕事内容はそれまでの仕事の整理や残務の引継ぎというわけではなく、前と同様に現場で仕事もし、書類も作り、新たに仕事を引き受けたりしていました。三月七日、八日の引っ越しにも出ています。私は、会社が私を退職させようとして社内回覧した後も続いて四月中旬頃まで会社で仕事をしていました。ポケットベルを返却するまでは、呼出にも応じて現場へいってます。また、つい先日の七月二九日にも会社の鈴木からミサワビルの設備点検をやってくれないか等と仕事を頼まれました。」(<証拠略>)、となっており、「必要に応じ」、「ポケットベルの呼出しに応じ」といった言葉使いからは勤務状況が通常のものでなかったことがうかがえる。さらに、この点に関する北村陳述をみると、「三月一日~三月二〇日 上記期間中債権者は三月七日、三月八日の両引越日私物整理の為数時間出社しました。尚上記期間中、債権者が担当していた一月~二月の工事件名に関する業者、顧客から電話があった場合は『私用により休んでいます。本人と連絡をとり債権者より電話するように伝えます』旨処理することで当社は対応していたもので、債権者がポケベルによる呼出しに応じ、自らが担当した仕事の残務処理をすることは当然のことと考えます。」(<証拠略>)、となっており、勤務が残務整理的なものでしかなかったことが明確に述べられている。したがって、二月二八日以降の債権者の出社は残務整理的なものが主であったものと認めざるを得ず、本件退職合意の不存在を根拠付けるものとはいえない。

4  債権者の反論4について

債権者は、債務者会社の営業体質には不正な点が多い旨を指摘して、そのような状況下で、債権者一人が責任を感じて退職するはずはない旨主張するので、順次検討する。

まず、債権者は、債務者会社は税務調査により例えば平成三年度では一九九万円の外注費を否認されているが、これは全てリベートであり、仮に債権者が債務者会社主張のとおりリベートを受け取っているとしても、債権者以外の者も九六万円余りのリベートを受け取っていることになる旨主張する。しかし、債権者の主張は、税務調査の結果否認された経費が全てリベートであったという前提に立っているところ、そのような事実を裏付ける証拠は全くないし、仮に一部がリベートであったとしても、問題は、債務者会社に隠れて着服したものであったかどうか、ということであって、債権者以外にも債務者会社に隠れて取引先からリベートを着服している者があったということを前提しないかぎり、右のような退職決意を否定する議論は成り立たないが、そのような主張、立証は全くされていない。

また、債権者は、北村社長から頼まれてリベート資金として三〇〇万円の借入れをした旨主張するが、この主張及びこれに副う債権者陳述(<証拠略>)についてはそれ自体疑問な点が多い。すなわち、債権者は、北村社長は自分の名義では税務調査で追及されるから債権者の名前を貸してほしいと頼んできたというのであるが、債権者も債務者会社の取締役なのであるから、債権者の名前を使っても追及を逃れにくいことに変わりはないはずである。また、債権者は自ら一部を返済したというのであるが、債権者が債務者会社に示した要求書(<証拠略>)ではその求償についてまったく触れられていない。さらに、債権者は、(証拠略)(債務者会社の取締役会の議案書)に「甲田個人一五〇〇、〇〇〇貸付を精算する」と記載があるのは右の借入金を指すと指摘するのであるが、債権者が右借入の契約書として援用する(証拠略)は主債務者は債権者、連帯保証人は北村社長個人となっており、債務者会社は何ら契約当事者にはなっておらず、証拠相互間に矛盾がある。したがって、この三〇〇万円借入に係る債権者主張の事実もにわかに認めることはできない。

さらに、債権者は、債務者会社の経理には不正な点が多い旨を主張するが、この主張に副う債権者陳述(<証拠略>)は、債権者自ら「これらの点については機会をみて、債務者会社の帳簿及び書類を他の株主とともに、閲覧又は謄写して調査をしてみたいと思います」と陳述するとおり(<証拠略>)、裏付けとなる証拠はなく、反対趣旨の北村陳述(<証拠略>)に照らして採用できない。

以上のとおり、債権者の反論4の主張も採用できない。

5  債権者の反論5について

債権者は、北村社長自身もプライベートカンパニーとしてセンヨーサービスを設立して不当に私腹を肥やしており、たとえ債権者がリベートを受け取ったとしても責任を感じて退職する必要は全くなかった、北村社長は私腹を肥やしていることを債権者に知られてこれを疎ましく思い、債務者会社から排除しようとしているのである、と主張する。

しかし、債権者が右主張に副う証拠として援用する(証拠略)はいずれも単なる請求書であり、それ自体は債権者の主張を積極的に根拠付けるものではなく、これを除くと、債権者の右主張に副う証拠は結局債権者陳述だけであるが、他に裏付けとなる証拠はなく、反対趣旨の北村陳述(<証拠略>)も存在する以上、直ちに北村社長が不当に私腹を肥やしているとの債権者陳述を真実と認めることはできない。

右のとおり、債権者の反論はいずれも採用できないといわざるをえない。

五  以上のとおり、債権者陳述はそれ自体信用性に疑問があるのに対し、北村陳述にはそのような点は特になく、第三者的立場の者の陳述書も北村陳述により符号しており、債権者が本件退職合意の存在を否定する事情として反論するところはいずれも採用しがたい。

したがって、本件退職合意が存在したとする北村陳述は信用でき、反対趣旨の債権者陳述は以上検討したところに照らし、採用できないというべきである。

六  よって、本件退職合意の存在が認められる以上、保全すべき権利関係について疎明がないことになるから、本件申立てはその余の点について検討するまでもなく、これを全て却下すべきである。

(裁判官 岡田健)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例